令和3年度予算概算要求にみる、ポストコロナ時代の助成金施策
厚生労働省が令和3年度予算概算要求を決定しました。その要求額は前年度予算とほぼ同額の約33兆円となり、引き続き新型コロナウイルス感染症の状況等が見通せないとして、新型コロナウイルス感染症への対応等緊急な経費として、別途上乗せを要求しています。ポストコロナ時代に対応するために、どのような予算要求がなされ、施策が検討されているか解説します。最終的な施策は、今後の予算編成過程において変更される可能性がありますが、現時点での情報としてお役立てください。
1.令和3年度の重点要求事項
2. 雇用維持、失業予防、再就職等に向けた支援
3.多様な人材の活躍促進
4.誰もが働きやすい職場づくり
5.まとめ
■令和3年度の重点要求事項
令和3年度予算の重点要求事項としては、令和2年度補正予算で対策が行われていた新型コロナウイルス感染症対策とともに、「ウィズ・ポストコロナ時代の雇用就業機会の確保」が重点要求ポイントとされています。施策は3つのポイントに分かれています。
・雇用維持・失業予防・再就職等に向けた支援
・多様な人材の活躍促進
・誰もが働きやすい職場づくり
保健、医療、介護、福祉体制の構築はもちろんのことですが、経済活動の両立をさらに推進するための施策となっています。これらのポイントから、現制度で行われている施策がどのように変わっていくのでしょうか。
■雇用維持、失業予防、再就職等に向けた支援
令和2年度補正予算により、これまでに類を見ない緊急特例措置が展開され、労働者の雇用維持、失業防止に大きな効果をもたらした「雇用調整助成金」ですが、すでに令和3年1月以降は段階的に特例措置の縮減を図っていくということが発表されており、今後は再就職支援の施策に方向性がシフトしていくことが考えられます。
※2020年10月29日更新
雇用調整助成金の特例措置を来年以降も継続し、必要な財源を令和2年度第3次補正予算案に盛り込む方針が発表されました。今後の動向には注意が必要です。
※2020年11月27日更新
厚生労働省より、雇用調整助成金の特例措置を2021年2月まで延長すると発表がありました。
※2021年1月6日更新
官房長官より、雇用調整助成金の特例措置を2021年2月以降も再延長を検討すると発表がありました。
※2021年1月25日更新
厚生労働省より、雇用調整助成金の特例措置を緊急事態宣言が解除された月の翌月末(現状であれば3月末)まで延長する方向と発表されました。
成長企業等への再就職支援として、前年度予算の2倍近い予算が要求され、「労働移動支援助成金」を拡充した再就職支援が検討されています。また派遣労働者を含めた非正規雇用労働者や就職氷河期世代、生活困窮者、新規学卒者の再就職支援も、支援体制の強化等が含まれており、「特定求職者雇用開発助成金」等が引き続き利用されていくことでしょう。
■多様な人材の活躍促進
令和3年4月より高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会確保等が努力義務となります。これにあわせて65歳以上への定年引上げ等の環境整備を行う企業への支援について、既存の「65歳超雇用推進助成金」の拡充による支援が考えられています。また70歳までの就業機会確保等が定められたことにあわせ、雇用保険による高年齢雇用継続給付が令和7年度から段階的に縮小されることが決定し、公的制度に頼らない企業での就業機会確保や処遇改善も求められるようになります。そこで64歳までの高年齢労働者の処遇改善を行う企業への新しい助成金(高年齢労働者処遇改善促進助成金)の創設が予定されています。
また令和4年4月からは女性活躍促進法に基づく一般事業主行動計画の策定・公表義務が101人以上の企業に拡大することを踏まえた訪問支援等の強化も予算に含まれています。そして男性への育児休業義務化も議論に上がる中、男性の育児休業等の取得促進について助成金の支援も含まれており、女性活躍、男性の育児休業取得等を含めた「両立支援助成金」による両立支援の推進は進められていくことでしょう。
■誰もが働きやすい職場づくり
非正規雇用労働者の再就職支援が強化される見込みの中で、非正規雇用労働者への処遇改善を行う企業への助成金による支援は、前年度予算より30億円減少となる80億円に留まります。「キャリアアップ助成金」の中でも、賃金規定の増額改定や人事評価制度、賃金制度の整備・実施による支援は引き続き進められますが、正社員化コースのような雇用転換の施策は縮減される可能性が高いです。
多数の申請により10月15日で申請受付が発表されるほど多くの取り組みがあった「働き方改革推進支援助成金」の労働時間短縮・年休取得促進コース、勤務間インターバル導入コースについて、長時間労働の是正や勤務間インターバル制度の導入促進は概算要求に含まれておりますが、前年度予算よりも要求額は減少しているため支援の規模は小さくなることが考えられます。
一方で新しい働き方に対応した良質な雇用型テレワークの導入・定着促進には、前年度予算よりも大幅な増加となる31億円の要求がされており、単純なテレワーク導入を進めるだけでなく、適正な労務管理下における良質なテレワークを普及・定着促進を図るとしています。新型コロナウイルス感染症対策による特例も設けられた「働き方改革推進支援助成金」のテレワークコースについては、「人材確保等支援助成金」に移行される予定となっており、労働環境の向上と感染防止に効果を発揮することが期待されています。テレワークを正式に制度として導入し、労働環境の改善等の一定の効果があった場合に、最大200万円を支給する助成金を実施する方針もすでに示されており、注目度は高いです。また令和3年3月から障害者法定雇用率を2.3%へ引き上げることが決定しましたが、テレワーク形式による障害者雇用を行う場合、トライアル雇用期間を最大6ヵ月まで延長可能とする施策も含まれています。
■まとめ
ポストコロナ時代を見据えた施策がキーワードとなっており、雇用や生命の維持を重点的な施策とした今年度の施策よりも、新しい時代に対応するためのメッセージが含まれていると感じられます。最終的な予算編成はどうなるか分かりませんが、予算概算要求の内容を参考にし、今後の人事施策を戦略的に計画、実行いただければと思います。
助成金の活用や人事施策の検討について、お困りのことがあれば是非お問い合わせください。