1. HOME
  2. ブログ
  3. 労働法関係
  4. 本当は怖い36協定!?正しい手順と運用を解説

BUSINESS COLUMN

ビジネスコラム

労働法関係

本当は怖い36協定!?正しい手順と運用を解説

労働法関係

3月初旬、コンサルティング会社と会社に勤める管理職の男性が、労働基準法違反で送検されたニュースが話題になりました。送検容疑は同社の社員1人に対し、法定の除外理由がないにもかかわらず各週40時間を超えて時間外労働をさせた疑い、と報道されています。36協定関連の違反があったのではということが推測できますが、労働基準法で定められる36協定に関する違反事例は多くあります。本稿では、この36協定の内容や法的義務について解説をします。

1.そもそも、労使協定とは
2.36協定とは
3.正しい締結の手順と運用
4.届出しないとどうなるか
5.まとめ

■そもそも、労使協定とは

36協定とは、労使協定の一つです。労使協定とは、所定の事項について使用者と労働者の間で取り交わされる協定のことです。
(「労使協定」という法令用語は存在せず、条文上は「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定」と記載されます。)

労使協定を締結すると、法定義務の免除や免罰効果が発生します。つまり、本来であれば法令の基準に達しない運用をしていても、労使協定を締結することで、使用者は義務を免除され罰則を免れることができるのです。ただし、協定の種類によっては労働基準監督署への届出をしなければ、効力が生じないものがあることに注意が必要です。

【表】労使協定の種類と届け出義務

根拠 労使協定の内容 届け出義務
労働基準法第18条 貯蓄金の管理に関する労使協定 あり
労働基準法第32条の2 1ヶ月単位の変形労働時間制に関する労使協定 あり
労働基準法 第32条の4 1年単位の変形労働時間制に関する労使協定 あり
労働基準法 第32条の5 1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する労使協定 あり
労働基準法 第36条 時間外労働、休日労働に関する労使協定(36協定) あり
労働基準法 第38条の2 事業所外労働のみなし労働時間制に関する労使協定 あり
労働基準法 第38条の3 専門業務型裁量労働制に関する労使協定 あり
労働基準法 第24条 賃金控除に関する労使協定 なし
労働基準法 第32条の3 フレックスタイム制に関する労使協定

(清算期間が1ヶ月を超えない場合)

なし
労働基準法 第34条 休憩の一斉付与の例外に関する労使協定 なし
労働基準法 第39条4項 年次有給休暇の時間単位での付与に関する労使協定 なし
労働基準法 第39条6項 年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定 なし
労働基準法 第39条 年次有給休暇の賃金を標準報酬日額で支払う場合の労使協定 なし
労働基準法37条3項 1か月60時間を超える時間外労働の賃金 引上げ部分の代替休暇の付与についての労使協定 なし
育児・介護休業法 第6条、12条 育児休業、看護休暇及び介護休業が出来ない者の範囲についての労使協定 なし

■36協定とは

労使協定の内、36協定は労働基準法第36条を根拠とするもので、時間外労働、休日出勤に関する内容を定める協定です。労働基準監督署への届出が必要となります。

労働基準法に定めのある労働時間の原則は以下の通りです。

労働基準法第32条(労働時間)
①使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
②使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

原則、1週40時間を超える労働、1日8時間を超える労働は許されていないのですが、以下のような例外規定が設けられています。

労働基準法第36条(時間外及び休日の労働)
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定(※労使協定)をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。

つまり、労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出た場合に限って、労働時間の延長(残業)や休日の労働が認められるのです。1日8時間以上、1週40時間以上の時間外労働の可能性がある事業所では、必ず36協定を締結し、届出をする必要があります。

■正しい締結の手順と運用

次に、36協定の締結の具体的な手続きについて確認します。

1.形式

形式は「書面」でなければなりません。労働組合がある事業場においては、労働協約として締結することも問題はありません。原則では、36協定の協定書と労働基準監督署への届出書(様式第9号)は別に作成すべきですが、協定書を作成しなくても届出書に労使が署名することで協定書に代えることができるため、実務上は届出書を協定書として使用している場合がほとんどです。また、届出書を埋める形で作成する方が締結事項の漏れも起こりづらく、別途協定書を作成している事業所は多くありません。

【協定届(様式9号)】

 

 

 

 

(参考URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000350328.pdf

2.内容

締結すべき内容は次の6項目です。

①時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的事由
②業務の種類
③労働者の数
④1日および1日を超える一定の期間について延長することができる労働時間
⑤労働させることができる休日
⑥有効期間

また、これ以外に当事者間で特別延長条項や、特別の割増賃金などの附帯条件等を付け加えた内容を協定することも認められています。

3.労働者代表の選出

締結に当たり、労働者の代表を選出しますが、これにもきちんとした要件があります。ここ数年で、労働者代表の選出方法についても、行政から周知されるようになりました。具体的には、労働者代表となるためには以下の要件を満たす必要があります。

①労働者の過半数を代表していること
②その選出に当たっては、すべての労働者が参加した民主的な手続がとられていること
③管理監督者に該当しないこと

例えば、使用者側から特定の社員に署名を求めることや、社内親睦会などの代表者をそのまま36協定の労働者代表とすることはできません。労働者代表は、あくまで36協定の代表として、話し合いや投票などの民主的な方法で、選出されなければなりません。例えば「○月○日までに回答がなかった場合は、賛成したものとみなす」というよう黙示の意思表示についても、本当に従業員自身の意思表示であるかどうかは厳しく見られるようになっています。

締結時の捺印についてですが、協定書と協定届を別に作成している場合は、協定届への捺印は不要ですが、協定届で協定書を兼ねる場合は、捺印が必要です。実態として、協定届で協定書を兼ねる場合が多いので、多くの場合捺印が必要になります。

4.届出と更新

労使の署名と捺印が終わったら、管轄の労働基準監督署へ届出を行います。提出時には会社控えも添付し、届出内容が分かるようにしておきます。また、36協定の内容を労働者に周知することも忘れないようにします。
有効期限が近づいたら、翌年分を改めて作成します。有効期限をまず修正し、必要があれば人数や時間数、その他の項目についても修正します。従業員代表や届出については前年通りの流れで行います。
36協定はe-Govによる電子申請も認められているため、活用もおすすめです。
厚生労働省:労働基準法等の規定に基づく届出等の電子申請について

■届出しないとどうなるか

36協定を届出しない場合、協定そのものが無効となり、事業主は義務を免れることも罰則を免れることもできなくなります。つまり、提出がないまま残業や休日出勤をさせると、違法状態ということになります。故意で提出しないのは論外ですが、うっかりしているうちに更新の時期を過ぎてしまうということは起こりがちです。万が一、更新の期限を過ぎていることに気づいた場合は、速やかに提出するようにしましょう。ただし、日付をさかのぼることはできません。本来の有効期間の開始日から届出日までの期間については、無効になることに注意が必要です。

■まとめ

会社の業種や人数に関わらず、残業や休日出勤をしてもらう可能性があれば、36協定の締結と協定届の届出は必要です。一度協定届を作成してしまえば、次年度以降はそれをたたき台にして作成することができます。有効期限を必ず確認し、届出漏れの無いよう年間のスケジュールに組み込んでおくのがおすすめです。

関連動画:
新様式の36協定について

36協定未届事業場への取組強化とは

関連記事