70歳就業や年金制度改正が与える人事制度への影響とは
いよいよ2021年4月から70歳までの就業機会等確保が会社の努力義務となります。2019年8月にも、5年ごとに行われる公的年金制度の定期健康診断とも言われている財政検証結果が発表され、その内容が反映されるよう検討された年金制度改正に関する法改正が、2020年6月に交付されております。老後の資産形成や高齢期の財政基盤の確保、セーフティネットの整備について、制度整備が進められています。本稿では、年金制度改正の内容を踏まえ、会社の人事制度に与える影響を解説します。
1.主な法改正の内容
2.定年後の労働条件に与える影響
3.確定拠出年金制度に与える影響
4.選択制確定拠出年金制度の注意点
5.まとめ
■主な法改正の内容
まず70歳までの就業機会等確保や、年金制度改正に関する法改正の内容を整理します。
1.雇用保険法等の一部を改正する法律
法律 | 主な法改正の内容 |
高年齢者雇用安定法 | 【2021年4月】70歳までの就業機会等確保努力義務 |
雇用保険法 | 【2025年4月】高年齢雇用継続給付を段階的に縮小 |
【2021年4月】高年齢者就業確保措置等の導入支援 | |
労災保険法など | 【2020年8月】失業等給付の算定方法変更 |
【2020年9月】複数就業者の労災保険給付変更 |
⇒高齢者、複数就業者等に対応した就業機会確保、セーフティネット整備が目的
2.年金制度の機能強化のための国民年金保険法等の一部を改正する法律
法律 | 主な法改正の内容 |
厚生年金保険法
国民年金法 |
【2022年4月】老齢年金の繰下げ受給上限年齢引き上げ |
【2022年4月】在職老齢年金の支給停止基準額変更 | |
【2022年4月】老齢厚生年金の在職定時改定導入 | |
【2022年10月】短時間労働者の社会保険対象拡大 | |
確定拠出年金法 | 【2020年10月】iDeCo+対象企業規模拡大 |
【2022年4月】老齢給付金の受給開始上限年齢引き上げ | |
【2022年5月】確定拠出年金の加入可能年齢引き上げ | |
【2022年10月】企業型年金加入者のiDeCo加入要件緩和 |
⇒働き方の多様化への対応、高齢期の経済基盤の充実が目的
既に施行済みの内容もありますが、人事制度にどのような影響を与えるか、ポイントを見ていきます。
■定年後の労働条件に与える影響
業務委託や社会貢献活動等、雇用以外の措置も含めて70歳まで就業機会等を確保することが求められることにより、老後の資産形成を踏まえた上で、どのように高齢期の働き方を考えていくのかというのを、改めて考え直していく必要があります。
現状の65歳までの雇用確保を求める高年齢者雇用安定法の内容から、定年は60歳、定年後は再雇用や継続雇用の制度がある、という会社が一般的になっています。60歳の定年後は、在職老齢年金や高年齢雇用継続給付の制度を考慮して、労働条件や賃金テーブルを設計している会社も多くあります。しかし雇用保険法等や年金制度の改正により、高年齢者雇用継続給付は段階的に縮小されることが決定し、在職老齢年金の支給停止基準も変更されます。2021年4月から中小企業にも適用される同一労働同一賃金の内容も踏まえた上で、60歳定年後の労働条件や賃金テーブルを考えていく必要があるでしょう。
■確定拠出年金制度に与える影響
個人が自主的な努力により、高齢期の安定的な経済基盤を作り、福祉の向上を図るといった目的で、企業型確定拠出年金を取り入れる会社も増えています。自身で個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入し、資産形成を行うという方も増えています。
年金制度改正により、従業員が加入するiDeCoに会社が掛金を上乗せして拠出できるiDeCo+の制度について、従業員100人以下から300人以下まで、対象企業の範囲が広がりました。また、現状は企業型確定拠出年金の制度を取り入れている会社に勤めている従業員は、原則iDeCoに加入することができず、多くの方はマッチング拠出を利用するしかありませんでした。この企業型確定拠出年金加入者のiDeCo加入要件についても緩和が予定されていますので、より柔軟な運用商品の選択、資産形成も可能となります。
■選択制確定拠出年金制度の注意点
生活設計やライフプラン設計の目的として、現状の給与の一部を「給与として受け取るか」「確定拠出年金の掛金として拠出するか」を従業員が選択できる、選択制確定拠出年金を制度としている会社も多くあります。
給与として先払いを受けるのではなく、拠出金として運用に回すことにより、老後の資産形成だけでなく、社会保険料負担の減少という点もメリットとしてよく挙げられています。しかしこれには落とし穴があり、社会保険料負担の減少はあくまで標準報酬月額の減少により発生するものとなりますので、将来の年金額や傷病手当金、失業給付の減少といった影響も及ぼします。そのため2020年10月には「社会保険・雇用保険等の給付額にも影響する可能性を含めて、事業主は従業員に正確な説明を行う必要がある」ということが法解釈として明確にされました。トラブルを防ぐためにも、社会保険の点からも十分な教育や説明が求められます。
■まとめ
年金制度改正の内容から、人事制度に与える影響や注意点の一部をまとめました。今後もさらに働くということが長期化、多様化していくことが予想される中で、より良い人事制度を戦略的に検討していく必要があります。法改正の内容は多岐に渡るため、お困りのことがあれば是非弊社にご相談ください。