雇用調整助成金の特例期間延長!年明けの雇用環境はどうなる?
京都市伏見区の和紙製造販売会社に勤めるパート社員が、雇用調整助成金を受給している会社が行った雇止めは無効として、会社を訴えたというニュースがありました。
雇用調整助成金の特例期間、緊急対応期間が令和2年12月31日まで延長されることが決定しましたが、特例期間や緊急対応期間の終了と同時にこのようなトラブルも増えていくのではないかと懸念されます。その背景、内容について解説をします。
1.雇用調整助成金の特例とは
2.雇止めは無効となるのか
3.来年以降は大量リストラも増える?
4.まとめ
↓動画でも分かりやすく解説を行っています。
【YouTube動画】雇用調整助成金の概要について
【Youtube動画】雇用調整助成金の特例措置の延長と大企業に係る助成率の引き上げ
■雇用調整助成金の特例とは
改めて雇用調整助成金とは、「経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者に対して一時的に休業、教育訓練又は出向を行い、労働者の雇用の維持を図った場合に、休業手当、賃金の一部を助成するもの」です。新型コロナウイルス感染拡大以前にも、リーマンショック、東日本大震災、台風・豪雨被害において、労働者の雇用維持に重要な役割を果たしてきました。
しかし改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく緊急事態宣言の発令等、新型コロナウイルス感染拡大による影響はこれまでに類を見ないものとして、大規模な経済対策により令和2年1月24日~特例期間、同年4月1日~緊急対応期間が設けられました。これまでの支給実績は約2兆円にのぼり、要件緩和や高助成率による特例の内容は雇用維持に大きな効果をもたらしています。※令和2年10月23日時点
【緊急対応期間の主な特例内容】
助成内容のポイント | 中小企業 | 大企業 |
①賃金相当額の助成 | 助成率 | |
新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主 | 4/5 | 2/3 |
上記かつ、解雇等をしていないなど要件を満たす事業主 | 9/10 | 3/4 |
②教育訓練を実施したときの加算 | 加算額 | |
教育訓練を実施 | 2,400円 | 1,800円 |
③支給限度日数 | 限度日数 | |
通常時 | 1年間で100日 | |
緊急対応期間 | 上記に加え別枠で利用可能 | |
④雇用保険被保険者でない場合 | 助成率 | |
雇用保険被保険者でない方の休業 | 上記①の助成率と同じ |
■雇止めは無効となるのか
雇用調整助成金は、上記の通り「労働者の雇用維持を図ること」が目的となっているため、雇用維持の目的に助成金が使用されなかったのであれば、許されないという判断になるかもしれません。ただし助成金を受給している=全ての整理解雇や雇止めが許されないか、という点については、全てがイコールでつながらないのではと考えます。
例えば会社全体としては利益を上げている会社であっても、労働判例により求められる整理解雇の4要件を満たした上で、赤字不採算部門の事業廃止、一部従業員の整理解雇を行うことはあります。会社としては雇用調整助成金を受けているため、雇止め理由が業績悪化だけを理由とするものではない、雇用調整助成金を受給していたとしても人員整理を行う必要がある、というような事情もあるかもしれない、とも考えられます。
具体的な訴訟内容を把握していないため何とも言えないところもありますが、これからの動向も注目したいと思います。
■来年以降は大量リストラも増える?
東京商工リサーチの発表によると、新型コロナウイルス感染症による倒産は600件に達し、1ヶ月あたり100件のペースで増加していると明らかにされました。雇用調整助成金だけでなく、特別貸付等、緊急経済対策がなされているのにも関わらず、影響はまだ続いているのが実態です。
しかし雇用調整助成金は、来年1月以降段階的に縮小する方向で調整されています。
関連記事:令和3年度予算概算要求にみる、ポストコロナ時代の助成金施策
※2020年10月29日更新
雇用調整助成金の特例措置を来年以降も継続し、必要な財源を令和2年度第3次補正予算案に盛り込む方針が発表されました。今後の動向には注意が必要です。
※2020年11月27日更新
厚生労働省より、雇用調整助成金の特例措置を2021年2月まで延長すると発表がありました。
※2021年1月6日更新
官房長官より、雇用調整助成金の特例措置を2021年2月以降も再延長を検討すると発表がありました。
※2021年1月25日更新
厚生労働省より、雇用調整助成金の特例措置を緊急事態宣言が解除された月の翌月末(現状であれば3月末)まで延長する方向と発表されました。
関連記事:令和3年5月以降の雇用調整助成金特例措置は?新たな雇用・訓練パッケージ
今までは雇用調整助成金の特例を利用することにより、雇用維持、倒産を防ぐことができていた会社についても、雇用調整助成金が縮小されることで大規模な人員整理、企業倒産を決断する会社が出てくるかもしれません。また同時に冒頭に取り上げたような、経営悪化を理由とする解雇、雇止め、労働条件変更、配置転換といったようなことを起因とする労務トラブルについても、増加していく可能性があります。
まだまだ感染拡大の状況が不透明な部分もありますが、雇用に関する経営計画も十分に先読みをして検討していく必要があるでしょう。
■まとめ
雇用調整助成金を受給している会社のトラブル、また雇用調整助成金の特例の観点から、来年以降の労務トラブルについてまとめました。このような状況を十分に情報収集した上で、トラブルの防止とともに、より良い労働環境を作り上げていければと思います。