毎年見直しが行われる!最低賃金について社労士が解説
最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類があり、このうち地域別最低賃金の額は毎年10月に見直されます。
※以降本稿の「最低賃金」は、「地域別最低賃金」を指します。
中央最低賃金審議会で審議された引き上げ額の目安について地方最低賃金審議会で審議答申が行われた後、異議申出に関する手続きを経て、都道府県労働局長によって各年度の最低賃金が決定されます。最低賃金の伸び率は年々上昇しています。
10月1日から新しい最低賃金が適用となった場合、10月1日勤務分の給与から適用となります。各事業場においては、最低賃金への対応に向けた準備を進めていくこととなりますが、特に重要となるのが「従業員の現行の賃金額の確認と見直し」です。本稿では、最低賃金制度とは何かについて解説するとともに、従業員の賃金額を確認する方法とポイントについてお伝えします。
1.最低賃金制度とは
2.従業員の賃金額を確認しましょう
3.まとめ
■最低賃金制度とは
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を決め、使用者は、その賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。
最低賃金額より低い賃金を使用者と労働者が双方合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます。
最低賃金法 第4条第1項
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
最低賃金法 第4条第2項
最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。
最低賃金は、パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託などの雇用形態や呼称に関係なく、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者に適用されます。なお、派遣労働者の場合は、派遣先の最低賃金が適用となります。
使用者が労働者に最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合には、使用者は労働者に対してその差額を支払わなければなりません。最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法第40条の定めにより、50万円以下の罰金が科せられます。
■従業員の賃金額を確認しましょう
従業員の賃金額を確認する際のポイントは、「最低賃金に含まれない賃金は除外する」と「賃金額を時給に換算する」の2点です。
(1)最低賃金に含まれない賃金
ボーナスや残業代といった、毎月支払われる基本的な賃金ではない賃金は、賃金額を確認する際に除外する必要があります。固定残業代やみなし残業代として支給している賃金も最低賃金には含まれません。
具体的には、以下の6つの賃金は最低賃金に含まれないので、これらの賃金の額を除いた額が最低賃金以上になる必要があります。
①臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
②1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
③所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
④所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
⑤午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
⑥精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
(2)時給換算の方法
最低賃金は「時給」によって定められています。日給制や月給制を採用している会社では、以下の確認方法で賃金額を時給に換算して確認します。
①時間給制の場合
時間給 ≧ 最低賃金額(時間額)
②日給制の場合
日給÷1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
③月給制の場合
月給÷1ヶ月の平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
※月平均所定労働時間:(365日 – 1年の休日合計日数)×1日の所定労働時間÷12ヵ月
④出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算し、最低賃金額(時間額)と比較します。
⑤上記①、②、③、④の組み合わせの場合
例えば、基本給が日給制で、各手当(職務手当など)が月給制などの場合は、それぞれ上記②、③の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)を比較します。
日給制と月給制を組み合わせた給与設計を例に、最低賃金の確認方法を解説します。
(1)手当の合計額から、最低賃金の対象とならない通勤手当を除外します。
手当合計21,000円―通勤手当5,000円=16,000円
(2)基本給(日給制)と手当(月給制)をそれぞれ時給換算します。
基本給の時間換算額
基本給(日給)6,800円÷1日の所定労働時間8時間=850円
手当の時間換算額
(1)で求めた額16,000円÷1ヶ月の平均所定労働時間160時間=100円
(3)時間換算額した額をそれぞれ合計し、最低賃金と比較します。
合計額:950円<最低賃金:961円
以上により、このケースの場合は最低賃金を下回る給与設計であることが分かります。
■まとめ
最低賃金の引き上げの検討に当たっては、最低賃金法第9条第2項に定められた次の3要素を総合的に勘案することが原則とされています。
- 地域における労働者の生計費
- 地域における労働者の賃金
- 通常の事業の賃金支払い能力
毎年の最低賃金改定の動向を把握した上で、賃金支払い状況を確認し適切な対応をしましょう。