高プロ制度の導入企業数が増えない理由

2020年9月末現在において、高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)の導入企業数は22社にとどまっていることが、厚生労働省の状況報告にて明らかになりました。前政権が大々的に取り上げたことで一時話題となったこの制度も、導入からすでに1年半経過以上経過しています。今なお導入企業数が増えない理由は何なのでしょうか。

■裁量労働制との違い

高プロ制度は労働基準法に定められる法定労働時間や、休憩、休日に掛かる規制が一切適応されません。深夜に働こうが休日に働こうが、何時間残業しようが、賃金に影響しません。欠勤や遅刻早退の概念もないため、労働者個人の好きなタイミングで休暇を取ることが可能です。

一方従来の裁量労働制は、労働時間や内容についてある程度労働者の裁量に任せるといえど、労働基準法の規制から外れる訳ではありません。午後10時から午前5時の間に働いた場合は深夜手当を支払う必要がありますし、法定休日に働いた場合は休日手当が必要です。当然欠勤した場合は欠勤控除の対象となります。そもそも導入時に、あらかじめ一日あたりの「みなし労働時間」を定めて運用します。

高プロ制度を検討する企業は、すでに従前の裁量労働制を導入している例が多いものと思われます。高プロ制度導入にはいくつかの高いハードルがあり、そのハードルを超える必要があるか否かをこの差を比較しながら検討することになります。

■高プロ制度導入に伴うハードル

対象業務

・金融商品の開発業務、

・商品のディーリング業務、アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)

・コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)

・研究開発業務

上記に限定されています。
そもそも当てはまる対象者が少なすぎるというのもありますし、自社社員が当てはまるのか判断しかねているケースも想定できます。使用者からの具体的な指示を受けていない、という条件も合わせて定められています。具体的な指示の中には、”特定の日時を指定して会議に出席することを一方的に義務付けること”なども含まれているとされており、労働者に対して相当程度の権限を与える必要があることが示されています。

年収問題

賞与などを含めない年収が1,075万円を超えている必要があります。労基署への提出書類に年収記載欄もあり、当然ごまかすことはできません。この時点で相当程度ハードルが高い数字です。

管理職ならこの収入を超えている、という会社もあるかと思いますが、管理職であればそもそも労働時間規制の対象外です。その場合深夜労働に係る深夜手当が削減できる程度の効果しか見込めません。また高プロを導入した場合、適用社員の年収下限が社内に周知されてしまうに等しく、それを望ましくないと経営層が考えることも想定されます。

導入企業数の少なさ

導入事例を見つけることが難しく、実際に労基署からどのような確認を受けるのかも未知の領域です。提出先の労基署からは厳格なチェックを受けることになるでしょう。是が非でも今から導入しなければ、と考えるような明確な理由がない限りは、とりあえず周囲の動きを様子見しているという企業も多いと思われます。

■まとめ

高プロ制度については制度導入までの手順が多く、導入した際のメリットもわかりにくいという側面は否めません。残業代ゼロ制度という言葉やイメージも先行しており、マイナスな印象を持つ方が少なくないというのも否定できません。

一方で、労働時間ではなく成果で仕事を評価する考え方を日本にも浸透させようとすることは、さまざまな働き方を求める昨今の日本社会に有益なものと考えます。

今後高プロ制度の要件が緩和され、多くの企業が検討せざるを得ない状況になっていく可能性は否定できません。今からでも高プロ制度の狙いや意義を会社としても受け止め、今後の社員の働き方を検討する一因としてみてはいかがでしょうか。

大熊