企業の弥栄のために・・・
2019.10.24 未分類
霊峰富士から初冠雪の便りがようやく届きました。今年は、2018年より22日遅い10月中旬の便りとなりました。山々の装いも始まり、冬が駆け足で近づいています。一方、企業の給与担当者様にとっては、例年、初冠雪の便りは年末調整業務に向けての号砲とでもいいましょうか。弊社事務所でも常緑の申告書類の準備で大忙しです。
さて、前回、8月29日更新したブログで政府の方針として、年金制度の定期健康診断結果を受けて、今秋から年金改革の具体案をまとめることになっていると書きました。引き続き「年金改革」に注目しておりましたところ、9月20日に第1回目の「全世代型社会保障検討会議」が開催されました。そして「70歳までの就労促進」「年金受給開始年齢の選択肢の拡大」「健康寿命を延ばすための病気の予防」について議論がはじまりました。
今回は「健康寿命を延ばすための病気の予防」に関連して、健康経営について企業のご担当者様にご紹介したいと思います。
健康経営とは?
世界有数の長寿国となった日本。しかし、平均寿命と健康寿命にはまだまだ大きな開きがあります。2018年に発表された厚生労働省の資料によると、男性の平均寿命と健康寿命の差は8.84年、女性は、その差がもっと顕著で12.35年です。そこでこの差を縮めるために「適度な運動」「適度な食生活」そして「禁煙」をアクション・プランとしてスマート・ライフ・プロジェクトが進められています。企業も同様に、社員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することが求められるようになってきました。これが健康経営です。健康診断や安全衛生への取組にかかる支出をコストではなく、経営的な投資として前向きに捕らえる意識改革が健康経営への第一歩といえるでしょう。
今、なぜ健康経営なのか?
1つ目の理由は、働く世代の減少と社員の高齢化への対応のためです。すでに法律で65歳までの雇用確保が義務化されています。今後は、65歳以上の高齢者が活躍できる職場環境を整えることが一層、急務となり、おのずと健康経営の必要性が高まってきます。
2つ目の理由は、人手不足の解消のためです。かつては有効求人倍率が1.00倍を下回る状態が続いていた時期もありましたが、現在は1.50倍まで高まり、人材不足が深刻化しています。社員の健康維持・増進により働きやすい職場環境をつくると、人材も定着します。また、社員を大切にする会社というメッセージを発信することになり、新たな人材確保にもつながります。
3つ目の理由は、医療費増大の抑制のためです。9月26日に発表された平成30年度の国民医療費は42.6兆円です。医療費があがるということは、企業が負担している健康保険料の増加を意味します。これは一企業だけでの取り組みでは抑制効果は雀の涙かもしれませんが、まずは意識を向けることが重要です。
“守り”と“攻め”の健康経営
健康経営には“守り”と“攻め”の局面があり、それらをバランスよく実施することが求められます。“守り”は事故防止や労災の予防、病気の予防などによる企業負担を軽減することです。そして“攻め”は生産性の向上や企業イメージの向上などプラス効果となる対応です。
“守り”については、最初に想定されるリスクを洗い出し、事前に対処する対応です。職場における安全と健康の確保はいうまでもなく企業の責務ですが、一歩先の社員が健康を害することで起きる事故なども予測し、転ばぬ先の杖まで用意しておく必要があります。ある運輸会社の取り組み事例になりますが、「安全」の前提は「社員の健康」と考えた経営者は、生活習慣病のドライバーが増加しはじめたことに着目し、ドライバーの食生活に課題を見出しました。業務柄、昼食に何を食べているか把握できず、偏った食事をとっているのだろうと想定していました。そこでまず健康診断受診率100%の達成を目標に掲げ、推進しました。またドライバーたちに普段食べている食事の写真を撮ってもらい、保健師と協力して、食事内容の分析や食生活の改善に向けた講習会やリーフレットの配布を始めました。始まったばかりとはいえ、ドライバーの健康に関する意識には変化が見られ、カロリーやバランスを考えた食事とる人が増えているそうです。生活習慣病が徐々に減少し、健康を害するリスクの低減、ひいては「安全」に一層つながることが期待されているということです。
次は、“攻め”の健康経営です。
具体的には、「作業効率化による生産性の向上」「対外的、社会的評価の向上」「企業ブランドの確立やイメージ向上」などがあります。これらを達成するために健康経営で必要な要素は、プレゼンティーイズムとアブセンティーイズムの理解です。前者は、出勤していても体調が崩れず、生産性が低下している状態、「疾病就業」を指し、後者はいわゆる「病欠」です。欧米などの研究によると、健康経営を考える上では、病欠よりも疾病就業の方が経済的損失は大きいと考えられています。疾病就業に陥る状態は、慢性疲労や躁鬱、腰痛・頭痛、花粉症などが考えられ、その状態で就業していると労働生産性は低下し、業務上のトラブルやミスなどを引き起こし、結果的に企業の損失につながると分析されています。しかし、疾病就業は職場においてある程度事前の予防ができます。
続いての“攻め”の健康経営は、生産性の向上への取り組みです。生産性に大きな影響を与えるものに「ワーク・エンゲージメント」の実現が重要視されるようになりました。これは仕事に誇りややりがいを感じているという「熱意」と仕事に夢中になり、集中して取り組んでいるという「没頭」、仕事に積極的にとりくんでいるという「活力」の3つがそろい、積極的で充実した心理状態のことをいいます。ワーク・エンゲージメントが高い人はストレスが低くなる一方、仕事への満足度やパフォーマンスが向上することがわかってきています。仕事に意味がある、楽しい、やりがいを感じるから一生懸命働くという考えに方向づけていく取り組みは、職場の活性化や社員の定着化というプラスのスパイラルへとつながっていきます。
最近では、国や自治体、保険者などによる顕彰制度が充実してきているため健康経営に取り組んだ企業が社会的な評価を受ける機会が増えています。認定制度のほか、金利優遇や費用補助、公共調達、求人面でのインセンティブがあり、企業イメージの向上というメリットになります。そして企業イメージの向上は、業績アップや優秀な人材の確保に直結します。
トップのメッセージを発信することがスタートです。
推進の第一歩はトップの健康経営に対する思いを発信することです。担当者やチームを決めて、研修参加や社内での推進を図りましょう。そして社員の健康課題を把握することも重要です。定期健康診断受診率100%の達成や受診後のフォローアップもしっかり行い、再検査受診率の向上も図ることで健康課題も見えてきます。取り組みにあたっては、大掛かりなしかけは必要ありません。社内周知のポスターを掲示したり、腰痛予防体操や朝のラジオ体操の実施、階段利用の推進など、小さな取り組みから始めるとよいでしょう。コストのかからない取り組みを推進しながら、「やりっぱなし」にならないよう、PDCAサイクルを継続的に回して、見直しを図りながら推進します。健康経営のゴールは社員の健康維持・向上だけではありません。その先の成長と事業の発展がなければなりません。企業の弥栄のための経営戦略としての健康経営に是非取り組んでみてはいかがでしょうか。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。HOMMA:)