「100年安心年金プラン」のための予防箋は何処に・・・?

各種年金関係

長い梅雨がようやく明けたとたんに炎帝が日本列島に鎮座するや大型台風の直撃、浅間山の噴火そして九州地方の大雨特別警報の発動と8月の日本列島は自然の脅威を感じる月でしたが、そんな最中に5年に1度の年金制度の定期健診である「財政検証」が一昨日ようやく厚生労働省から発表されました。結果は、経済成長と労働参加が進むという前提で今後30年間は現役世代手取り給与平均の50%以上の給付水準が維持できるという「経過観察」的なものでした。

給付水準50%とは?
財政検証に用いられている給付水準は、主に20歳から60歳までの保険料を納めて公的年金制度を支えている現役世代の賞与を含む平均手取り月額に占めるモデル世帯の年金受給開始時(65歳)に受け取る年金月額の割合のことで、所得代替率といわれています。目安となる給付水準50%は、2004年の年金制度改革で年金受給世代は教育費や住宅ローンなどがかかる現役世代と比べ、60%程の収入で暮らすことが標準だろうとの見方から、今後の少子高齢化の進行にあわせて年金額を抑制するマクロ経済スライドにより給付水準が徐々に低下することを見込んでも、現役世代の手取収入の半分以上の年金額があれば、一定程度の生活は維持できるだろうとの試算により定められたもので、将来にわたってこの最低50%の水準は確保するというのが政府の公約となりました。そして、この水準が50%を割り込むと見込まれる場合には、年金の給付と負担のあり方について検討し、必要な見直しを行わなければならないと法律で定められているため、財政検証の際の指標となっています。

ただ、この計算方法では、分母となる手取り額には税金や社会保険料が含まれない一方、分子となる年金額には税金も社会保険料も含まれているため、所得代替率が高くなり、生活実態を反映していないという論点もあります。また、分子となるモデル世帯も40年間厚生年金に加入し、その間の平均収入が厚生年金(男子)の平均収入と同額の夫と20歳以降60歳までの40年間専業主婦の妻の世帯であるため論点の宝庫です。20歳の誕生月までの間に結婚して専業主婦となり、そのまま60歳を迎えるまでの40年間をずっとサラリーマンの妻として国民年金第3号被保険者であるなんて、最近ではなかなかお目にかかれないレアなケースだと思いませんか。

話を本題に戻しますが、今年65歳で年金をもらう世帯の所得代替率は61.7%です。世代が若くなればなるほど、この所得代替率は低下していき、30年後にぎりぎり50%を維持できるというのが、いろいろな論点があるとはいえ、今回の基準値内という判定結果です。今から30年後に年金をもらい始めるのは、30代半ばの昭和60年前後生まれの世代です。経済成長率0.4%の試算では、30年後の平均手取り給与472,000円に対して所得代替率が50.8%、年金額は約24万円ですが、経済成長が全く見込めない0.0%の試算になると所得代替率は50%を下回ることとなり、保険料率引き上げ等の「治療」が必要な段階へ突入します。ちなみに今の30代が今年65歳の年金受給開始者と同水準つまり現役世代の手取り給与の60%程度の年金をもらうためには、68歳と4ヶ月まで働いて保険料を納め、なおかつ年金の受給開始も68歳4か月まで繰下げなければならないそうです。

では、これの予防箋はあるのでしょうか。
政府が今秋から年金改革の具体案をまとめる方針となっていますが、ポイントは「支え手拡大」と「給付抑制」です。「支え手拡大」については、雇用保険と同様に所定労働時間週20時間以上のパート、アルバイトに学生を加えて、企業規模や賃金収入要件の廃止を含んだ適用の拡大について検討されます。また給付抑制については、保険料納付期間を現行の40年から45年に延長することや在職老齢年金の上限額の撤廃や見直し、厚生年金の加入年齢の引き上げ(70歳から75歳)、受給開始可能期間の年齢上限の引き上げ(70歳から75歳)などです。何れの予防箋に関しても、企業にとっての負担増は否めないでしょう。

私たちも世代に関わらず、公的年金だけに頼らない老後の設計を見直すきっかけに5年に一度の財政検証を活用してもよいかもしれません。物議を醸し出した老後資金2,000万円問題。金融庁の思惑通り、投資セミナーへの40代、50代の駆け込み需要が拡大しているそうですが、最近、顧問先からのiDeco加入の事業主証明書の作成依頼が微増しているのも偶然とは思えません。かくいう私もずっと以前に取り寄せたiDeco加入の手引きを手に取り、今からでは焼け石に水かと思いつつも再検討を始めたところです。

最後に、蜩やつくつくぼうしの鳴き声に季節の移ろいが感じられるようになりました。「惠蛄(けいこ)春秋を知らず・・・」という仏教の教えがあります。一生の大半を土中で過ごしているセミは春、秋を知らず、それゆえに今が夏であることも知らない。それでもこのひと夏を一心に鳴いている。その姿から、今を一心に生きることの大切さを教えてくれていると思うと頑張れ頑張れとエールを送ってくれているかのように感じます。大きな自然災害や人災に遭われた皆様にもこのエールが届きますように願わずにいられません。

今回も最後まで、お読み下さりありがとうございました。HOMMA:)